花を育てることは、子供たちにとって多くの学びと発見に満ちた経験です。種から芽を出し、葉を広げ、つぼみをつけ、花が咲くまでの過程を観察し、記録することで、自然の神秘に触れ、命の尊さを学ぶことができます。
私が勤務する長野県軽井沢町の認定こども園では、豊かな自然環境を生かし、園庭の一角に花壇を設けています。そこで子供たちと一緒に、季節の花を育てる活動を行っています。その中でも特に力を入れているのが、一人一鉢の花を担当し、成長日記をつけるという取り組みです。
この活動は、子供たちの観察力と好奇心を養い、植物への愛情を育むことを目的としています。また、命の成長を見守る責任感や、世話を続ける忍耐力など、社会性の基礎となる力を身につけることもできます。
園芸活動は、情操教育や環境教育の観点からも大変意義深いものです。土に触れ、生命の営みを感じることで、子供たちの感性は豊かに育まれていきます。また、自然の大切さや、環境を守ることの意味を、体験を通して学ぶことができるのです。
今回は、この「花の成長日記」の魅力と、実際の取り組み方について詳しくお伝えしていきます。子供たちの感性を育む園芸活動の素晴らしさを、ぜひ一緒に探求してみましょう。
花の成長日記のメリット
観察力と好奇心を育む
花の成長日記をつけることで、子供たちは植物の変化に敏感になります。日々の観察を通して、芽が出る瞬間や、花が咲く過程を細かく捉えるようになるのです。「昨日より少し大きくなったね」「つぼみが膨らんできたよ」と、小さな変化を見逃さない鋭い観察眼が養われます。
また、花の不思議な生態に気づくことで、子供たちの好奇心が刺激されます。「なぜこの花はこんな形をしているの?」「どうして花の色が変わるの?」と、疑問を抱き、その答えを探究する姿勢が育まれるのです。
私が担当するクラスの5歳児たちは、昨年からマリーゴールドの観察を続けています。子供たちは毎日欠かさず花の様子を見守り、「今日は何枚の花びらがあるかな?」と数えたり、「葉っぱのギザギザが増えてる!」と発見を喜んだりしています。こうした探究心は、将来、科学や自然科学への興味につながっていくことでしょう。
自然への愛情を深める
花の世話を通して、子供たちは植物への愛着を深めていきます。水やりや草取りなど、世話を欠かさずに行うことで、花の生命力の強さと儚さを同時に感じ取るようになります。
ある男の子は、毎朝登園するなり、真っ先に自分の花に水をあげに行きます。「お花さん、おはよう! 今日も元気でいてね」と、愛情たっぷりに語りかける姿が印象的です。また、強い日差しで花が萎れそうになった時は、「休んでいいんだよ」と優しく寄り添う女の子もいました。
こうした経験から、子供たちは自然を慈しみ、大切にする心を育んでいきます。命あるものへの思いやりは、やがて他者への優しさとなって表れるのです。
達成感と自己肯定感を得る
花の成長を見守り、立派に育てることで、子供たちは大きな達成感を味わいます。「私が育てたお花が、こんなにキレイに咲いたよ!」と、満面の笑みで報告する子供たち。その表情からは、自信と誇らしさが溢れています。
中には、最初は上手に世話ができず、枯らしてしまった子供もいます。それでも、”植物博士”を自称する年長児に助言をもらい、再挑戦することで、少しずつコツをつかんでいきました。諦めずに努力を重ね、花を咲かせた時の喜びは、何物にも代えがたい経験となったようです。
このように、花の成長日記を通して、子供たちは自分の頑張りが実を結ぶ体験を重ねます。それは、自己肯定感を高め、困難に立ち向かう力を養う土台となるのです。
成長日記のつけ方
必要な材料と道具
花の成長日記をつけるために、まずは必要な材料と道具を揃えましょう。
準備するもの:
- スケッチブックやノート
- 色鉛筆やクレヨン
- 定規
- カメラ(スマートフォンやデジタルカメラ)
- 虫眼鏡(あると観察が捗ります)
子供たちには、自分だけの成長日記ノートを用意してあげましょう。表紙に花の名前や自分の名前を書いて、オリジナリティを出すのも楽しいですね。
観察のポイントと記録方法
成長日記をつける際は、次のようなポイントを意識して観察し、記録していきます。
観察ポイント:
- 芽が出た日付と大きさ
- 本葉が何枚出たか
- つぼみの数と大きさ
- 花が咲いた日付と花の色・形
- 花の生長の様子(花びらの数、大きさの変化など)
- 葉の枚数と大きさ、形の特徴
- 植物の高さ
- 気づいたこと、不思議に思ったこと
記録方法としては、スケッチと言葉での説明を組み合わせるのが効果的です。子供たちの描写力に合わせ、写真を撮って貼り付けるのもおすすめです。
日記の書き方の一例:
【4月2日】
今日、ヒマワリの種を植えました。
土に種を埋めて、たっぷりお水をあげました。
早く芽が出るといいな。
【4月5日】
小さな芽が顔を出しました!
やった!
2つに割れた種の皮をかぶって、
まるでお帽子みたい。
芽の大きさは、5ミリくらいかな。
このように、それぞれの成長段階で、気づいたことを克明に記録していきます。絵と言葉を組み合わせることで、より詳細に成長の様子を振り返ることができるでしょう。
写真や絵を活用する
成長日記では、写真や絵を活用することで、より詳細に記録を残すことができます。子供たちのスマートフォンやデジタルカメラで、植物の様子を定期的に撮影してみましょう。
「葉っぱの形、前は丸かったけど、今はギザギザしてきたね」 「花の色が少しずつ濃くなってるよ」
写真を見比べることで、子供たちは成長の過程をより具体的に捉えることができます。写真に撮った日付や気づきをメモしておくと、のちのち振り返った時に役立ちます。
また、子供たちが植物の様子を絵に描くことも大切です。観察眼を養うだけでなく、細部をとらえる力や、形をアウトプットする表現力が身についていきます。
うまく描けなくて悩む子供には、「花の色はクレヨンのどの色に近いかな?」「葉っぱの形は、何に似ているか考えてみよう」と声をかけ、特徴をつかむためのヒントを与えるのも良いでしょう。
写真や絵は、成長日記を豊かに彩る大切な要素です。子供たちの観察力と表現力を育む機会として、ぜひ活用していきたいですね。
花の種類と育て方
季節に合わせた花選び
子供たちが育てる花は、季節に合わせて選ぶことが大切です。春から夏にかけては、育てやすく、成長の変化が分かりやすい花がおすすめです。
春から夏に育てやすい花:
- チューリップ
- パンジー
- ビオラ
- マリーゴールド
- ヒマワリ
- ホウセンカ
- 百日草(ジニア)
秋から冬は、寒さに強く、長く楽しめる花を選ぶと良いでしょう。
秋から冬に育てやすい花:
- キンセンカ
- コスモス
- ケイトウ
- ストック
- ビオラ
- パンジー
- シクラメン
季節の移ろいを感じながら、さまざまな花の特徴や、育て方の違いを学ぶことができます。子供たちと一緒に、育てる花を選ぶ楽しみを味わってくださいね。
土づくりと植え付け
丈夫な花を育てるためには、良い土づくりが欠かせません。園芸店などで、腐葉土やバーミキュライト、鹿沼土などを混ぜた「培養土」を購入するのが手軽です。
初めての園芸に挑戦する子供たちには、「土は植物の赤ちゃんを育てるゆりかごみたいなものなんだよ」と伝えると良いでしょう。土の感触を確かめ、愛情込めて花を植えつける大切さを教えてあげてくださいね。
植え付けの手順:
- 鉢に土を7~8分目まで入れる。
- 苗を鉢の中央に置き、根を広げるようにする。
- 周りに土を足して、軽く押さえる。
- たっぷりと水を与える。
子供たちの手の大きさに合った鉢を選ぶことも大切です。小さな手でも持ちやすい、プラスチック製の鉢がおすすめです。
水やりと日当たりの管理
花の育て方で最も重要なのは、水やりと日光管理です。子供たちには、「植物も私たちと同じで、お水を飲んで、太陽の光を浴びないと元気に育たないんだよ」と伝えましょう。
水やりのコツ:
- 土の表面が乾いたら、たっぷりと水を与える。
- 葉水(葉に水をかける)は避け、土に直接水をかける。
- 水のあげ過ぎに注意する。(根腐れの原因に)
- 植物の種類や季節によって、水やりの量を調整する。
日当たりの管理:
- 植物の種類によって、必要な日光の量が異なることを伝える。
- レースのカーテン越しの光が適している花(シクラメン、ビオラなど)もある。
- 真夏の直射日光は、植物にとって過酷な場合も。レースのカーテンなどで遮光する。
子供たちが毎日の水やりを楽しみにしている姿を見ると、植物への愛情の深さを感じずにはいられません。でも、うっかり水やりを忘れてしまうこともありますよね。そんな時は、「明日は代わってあげるから、植物に謝ってみよう」と伝えるのも一つの方法です。
こうした経験を通して、子供たちは責任感と優しさを育んでいくのです。
子供たちとの園芸活動
花の成長を一緒に観察する
花の成長日記をつける際は、子供たちと一緒に観察する時間を大切にしたいですね。「今日のお花はどんな様子かな?」と声をかけ、子供たちの気づきに耳を傾けましょう。
観察を通して、子供たちは植物の生命力の強さと、自然の摂理を学んでいきます。 「つぼみが大きくなってる! 明日は咲くかな?」 「あれ? 昨日まであった葉っぱが落ちてる!」
植物の変化を一喜一憂する子供たちの姿を見ていると、私自身も、命のドラマを再発見する思いがします。
時には、虫食いの葉っぱを見つけて、「お花が痛そう…」と心配する子供も。そんな時は、自然界の営みについて、子供たちに分かりやすく伝えることが大切です。
「葉っぱを食べるのは、昆虫たちのごはんなんだよ。植物は、小さな生き物たちとも助け合って生きているんだ」と話すと、子供たちは不思議そうな顔をしながらも、納得した様子を見せます。
こうした対話を重ねることで、子供たちは自然の一部である自分たちの存在に気づき、謙虚に生きることの意味を学んでいくのでしょう。
感じたことを言葉で表現する
花の観察で大切なのは、子供たちが感じたことを言葉で表現することです。「今日のお花はどんな気持ちかな?」「葉っぱを触ってみてどう?」と問いかけ、子供たちの感性を引き出していきましょう。
ある女の子は、花びらをそっと触れながら、「お花のドレスは、シルクみたいにすべすべだよ」と表現しました。また、男の子は花の蜜を吸う蝶々を見て、「お花さんは、蝶々にごはんをあげているんだ!」と話していました。
何気ない会話の中に、子供たちなりの花への愛情や、自然への畏敬の念が表れています。子供たちが感じたことを言葉にすることで、その経験はより深く心に刻まれるのです。
園芸を通した協働と交流
花の成長日記は、子供たち同士の協働と交流の機会ともなります。「隣のお花は大きいね! どんなふうにお世話してるの?」と、友達の花の様子を見て、育て方の工夫を学び合う姿が見られます。
また、年上の子供が年下の子供に、植物の育て方を優しく教える場面も。「葉っぱが黄色くなってきたら、お水が足りないサインだよ」「つぼみを数えてみると、毎日の変化が分かって楽しいよ」など、子供たち同士の教え合いは、とても微笑ましいものです。
時には、「みんなで大きなヒマワリを育ててみたい!」と、クラス全体で一つの花を育てることも。協力して世話をする中で、子供たちは思いやりと責任感を育んでいきます。
こうした協働の経験は、子供たちの社会性を豊かに育むことにつながるのです。
まとめ
花の成長日記をつける活動は、子供たちに多くの学びと気づきをもたらします。植物の生長の神秘に触れることで、命の尊さを実感し、自然への畏敬の念を育むのです。
また、責任を持って花の世話を続ける中で、子供たちは忍耐力と優しさを身につけていきます。毎日の観察で、小さな変化を見逃さない観察眼を養い、感じたことを言葉で表現する力を伸ばしていくことができるでしょう。
園芸活動を通して、子供たち同士の協働や交流が生まれることも大きな意義があります。共通の目標に向かって力を合わせ、時には teaching and learning を実践する。そうした経験は、社会性の基礎を築いていくのです。
私たち保育者は、子供たちが花と向き合う時間を大切にしながら、さりげなく寄り添っていきたいですね。子供たちの心に、自然への愛情の種を蒔き、豊かな感性を育む手助けができれば幸いです。
今日も、子供たちと一緒に、花の成長を見守る喜びを味わいます。小さな発見を喜び合い、命の輝きに感動を分かち合う。そんな何気ない日常の積み重ねの中に、子供たちの心の成長があるのだと信じています。
花の成長日記が、子供たちの輝かしい未来への一歩となりますように。自然と寄り添い、優しさと逞しさを兼ね備えた子供たちが育っていくことを願ってやみません。